日々の学び : Ben Ryan『Sevens Heaven: The Beautiful Chaos』


本サイトでは”現役スポーツアナリスト”の「日々の学び」をブログとして残していきます。

2016年リオ五輪はラグビーにとっても重要な意味を持つ大会だった。七人制ラグビーが初めてオリンピック種目になった年、そして日本がニュージーランドを破った大会でもある。

金メダルはフィジー。なんと国として初めてのメダル。ナショナリズム的に国家の威信がかかった大会がオリンピックであるわけだが、七人制ラグビーはフィジーの国技。能天気に見える彼らにとっても負けられない大会。その時のフィジー代表監督はBen Ryan、イングランドからやってきた赤髪のコーチだった。

Bay of Plentyに帯同していたときに当時の監督に「これは絶対読んだ方がいい」と勧められ、半年かけてやっと読み終えた。英語の勉強も兼ねて英語版を読んでいのだが、疲れると読む気が起きないものでダラダラと時間をかけてしまった。

Ben Ryanとフィジー7人制代表のオリンピックまでの軌跡、そしてそれに繋がる少年時代の思い出。副題は「The Beautiful Chaos Of Fiji’s Olympic Dream」、ピッチ上からピッチ外も全てがカオスだったフィジー代表の環境、イングランド人がそこから学んだこと。学びの多い本でした。こと日本にいる自分にははっとさせられることが多かった。

とにかくカオスなフィジー生活

突然来たフィジー代表からのオファー。14時に面接のはずが連絡が来きたのがまさかの2週間後。そして代表監督就任か否か返事するタイムリミットは20分。就任前後でフィジー協会が破産、最初の半年は無給で働くというカオスっぷり。

こと財政難については細く描かれていて主人公以外のマネージャーも海外遠征のみしか人件費が払われない。練習着はばらばら。怪我人が出ても渡航費が払えず交代選手を呼べない。オリンピック直前は、古いスポンサーロゴがテープで隠された練習着が来る、といった始末でいわゆる「ハイパフォーマンス」からはかけ離れた環境だったそう。

以前アイランダーの移民問題について他の文学作品から書いた。「Sevens Heaven」の中でもやはり多くのフィジー人はその貧しさからニュージーランドやオーストラリアといった国に移住、国籍を得ることを「グレードアップ」と捉えている方も多いように描かれる。

多くの選手は七人制代表で活躍すると欧州のクラブチームに引き抜かれ、若い才能は早いうちに他のオセアニア諸国に移住して国籍獲得を目指すというチームにとっては負のサイクルの中で勝ち続ける環境を著者は求められる。面白いのは選手獲得に関する「Coconut Wireless」という表現。小さい国の中なので、人々の噂話があっという間に広がることをそう称するそう。

興味深い、というか科学もクソもないなと思うのは作中で怪我した選手が「自分の足は呪われている」とコーチに訴えてくるシーン。これ冗談だと思う方がいると思うのですが、Bay  of Plentyに帯同していたときにも同じ問題が発生した。そのとき彼は泣きながら訴えて、チームから休みをもらって除霊しに行った。アイランダー(全てに当てはまるわけではないと思うのですが)にとっては「呪い」という科学でもない概念が本当に信じうるものみたいだ。

パワーポイントはコーチの自己満足

作中繰り返し、Ben Ryanはパワーポイントを使った長時間のミーティングやモチベーショントークを批判している。これはアナリストの僕にも耳が痛い話で、つまるところ、パワポや長々としたミーティングは全て、コーチがコーチのためにやっているとBen Ryanは言う。

The speech would only have been for me. Coaches like to have these moments, to feel like they are the goat inspirations, that their words are going to make all the difference.

「スピーチは自分のためにある。コーチは自分にインスピレーションがあり、自分の言葉が決定的な違いを生み出す、と感じることが好きだ」

自分の資料作成も反省します… Simple is betterですね…

「異文化を理解すること」

正直、プロアマ問わず時代の流れとして、文化風土を無視した「鬼軍曹」的な指導方法だけだと受け入れられないようになってきていると日々感じる。Ben Ryanがフィジーに行ったような異文化の世界に行くケースではなおさらだ。

正直、サンウルブズやトップリーグに外国人が多いとか少ないとかそういうレベルを超越していて、彼の体験から学ぶことが非常に多い。口すっぱく、「コーチは過去やってきた慣れ親しんだことしかしない。なぜならそれが一番楽だからだ」とか「同じような世界にいる限り、成長はない」みたいなことを書いているが、フィジーで仕事した人の言葉は誰の本よりも重く響く。

郷に入っては郷に従えというのは簡単なことだが、やはり異文化を学ぶことが大切かな、と。フィジータイム(沖縄タイム的なそれ)は自分だったら絶対イライラしてしまうので笑 教育、信仰といった根っこのものから娯楽といった表象文化まで、これからも絶やさずインプットを欠かさずにせねば。

最後に一番響いた言葉を引用したい。

Even as an adult you can learn and you can change. Keep being brave. Don’t let the past dictate your future.

“大人でも学べるし、変われる。勇気を持とう。過去に未来を描かせてはいけない。”

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