日々の学び : 林舞輝『「サッカー」とは何か』

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「ピアノ奏者がピアノの周りを走らないように、サッカー選手がサッカー場の周りを走る必要はない」

有名な言葉だ。

「うちでは戦術的ピリオダイゼーションを導入しているので、ボールゲームをたくさんします!」

こういう言葉はラグビー界でもたまに聞くが、個人的にはすごい疑わしい。なぜなら、戦術的ピリオダイゼーションの書籍はほぼ英語だからだ。そして論文に近い書籍が多い。だからラグビー界で「戦術的ピリオダイゼーション」という言葉を聞くととても疑わしくなる。というかそもそもトーシロには「戦術的ピリオダイゼーション」は意味わからないぐらい難しい。「アカデミック」な研究の上に成立している。決して「アカデミック」なスポーツではないラグビーに、部分的に理解したものを取り入れようとする自体がそもそも極めて要素還元的な発想であるわけである。

「戦術的ピリオダイゼーション」=「走り込みをしない」という認識は間違っているわけが、如何せん日本語の文献がない。だから読むのに苦労してしまう。自分もいくらか論文読みましたが、読むほど意味わからなくなってくる。

そこで、『「サッカーとは何か」』だ。ラグビー界でいうピリオダイゼーションは「ラグビーのピリオダイゼーション」であって、「戦術的ピリオダイゼーション」や「サッカーのピリオダイゼーション」とは全く別物のことであることが多い。ということで唯一と言っていい「戦術的ピリオダイゼーション」や「構造化トレーニング」が体系的にまとまった日本語の本である本書の感想を書いていく。

要素還元と構造主義

要素還元とは、

複雑な物事でも、それを構成する要素に分解し、それらの個別(一部)の要素だけを理解すれば、元の複雑な物事全体の性質や振る舞いもすべて理解できるはずだ、と想定する考え方

(Wikipedia)

構造主義とは、

あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解する考え方

(Wikipedia)

ざっくりいうと、
・家は木からできているから家は木だというのが還元主義。
・木材それぞれによる複雑な相互作用によって存在してるのが家、と捉えるのが構造主義。

サッカーやラグビーにおいても、止まったままするパス練習は要素還元的(還元主義的)、11v11や15v15は構造化的なトレーニングとなる。この考え自体は科学ではなく哲学で生まれた言葉である。大事なのは要素でなく相互関係ということ。

戦術的ピリオダイゼーションと構造化トレーニング

本書を読めばわかるのですが、二つの理論は全くの別物というわけではない。むしろ酷似している。

・一週間単位でのトレーニングプラン
・負荷の定義わけ
・80%のコンディション≠ピリオダイゼーション
・特化の法則と複雑系

と共通項ばかりです。

パッと学べるのは「戦術的ピリオダイゼーション」における「傾向の法則」ではないだろうか。試合で起きる現象に合わせて練習の内訳も変えるべき、という理論。ラグビーだとほぼセットピースからのアタックしか練習しないことが多い。

サッカーの場合だと、なんでセットプレーの中で一番頻度の少ないコーナーキックばっかやるのかって話になるそうだ。ちなみに「戦術的ピリオダイゼーション」では「カオス」という言葉が出てくる。ただ、これはラグビーにおける「アンストラクチャー」のことではなく、「カオス理論」のことである。

「カオス理論」とは「バタフライエフェクト」や「風が吹けば桶屋が儲かる」のような、小さな変化が最終的に大きな変化をもたらす、という意味。これは誤解している人が多そうなので、書いておく。

そういう文脈のもとでの「カオス・フラクタルの法則」がある。フラクタルとは結晶、つまり1v1も3v3も7v7も15v5、全てがラグビーであるという意味で、結晶が引いて見ても寄って見ても模様が変わらないということだ。1v1や3v3がカオスとして複雑な相互作用を持ったものが15v15のラグビーということになる。

要素還元的トレーニング

ここまで読むといかにラグビーが要素還元的か、ということがわかると思う。

要素還元的トレーニングを行うということは、相手が自分たちにしてくるいわゆる「パターン」を全て選手が学習しなければ、対戦相手の対策にはなり得ないということになる。果たしてはそれは可能なのだろうか。

要素還元的トレーニングを愛好するオンリーワンの指導者がいる。2022年現在リーズ・ユナイテッドの監督マルセロ・ビエルサだ。その驚くべき思考法と手法は以下の記事で特集されている。

Marcelo Bielsa admits Leeds have spied on every opponent this seasonMarcelo Bielsa has admitted Leeds United have spied on everywww.theguardian.com

そう、盗撮とスパイだ。相手が何をしてくるか分かれば、要素還元的に対策できる。だから相手がやってくることを非合法でも知ろうとする。斬新な発想だ。

終わりに

本書を読めば、「戦術的ピリオダイゼーション」と「構造化トレーニング」の基本がわかる。ラグビーはどうしても競技の性質として要素還元的な練習が多くなるので、他スポーツ、特にアカデミックとして発達しているサッカーから色々学びたい。サッカーから学ぶというと、Twitterとかの人が多いと思うのですが、はっきり言って表層的な部分だけ学んでも仕方ないので、ちょこちょこ英語の書籍も読んでいる。そしてサッカーというスポーツは欧州で発達したことを理由に?、科学だけでなく哲学も織り込まれている。

科学が哲学を基に発達したのであれば、スポーツ科学に哲学は必須のはずだ。道のりは長い…

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